リーマン・ショックを一言で説明するなら、住宅バブルの崩壊です。
そこで、住宅価格と株価の関係が一目でわかるように、NYダウの値動きに住宅価格指数の折線グラフを重ねたチャートつくりました。
ことの始まりから暴落後まで、このようなチャートを見てもらいつつ、順を追ってていねいに解説していきます。
最後まで読めば、リーマンショックはなぜこのような値動きになったのかが理解できます。
目次
リーマン・ショックとは、2007年10月からの暴落のこと
まず、冒頭のチャート全体の流れについて、時系列で簡単に解説します。
チャートは、ロウソク足(月足)が「ダウ工業株30種平均」、青の折れ線グラフが「S&Pケース・シラー住宅価格指数」です。
ダウ工業株30種平均(Dow Jones Industrial Average)
S&P Dow Jones Indices が算出する、ニューヨース証券取引所とナスダックの上場銘柄30社の株価を基準にした指数です。米国を代表する指数です。通称、NYダウ
S&Pケース・シラー住宅価格指数(CSI:S&P/Case-Shiller Home Price Indices)
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P Global Ratings)が公表している米国住宅価格指数です
米国住宅ブームの発生
発端は、2002年頃に米国でおきた住宅ブームです。
住宅購入が活発ななったことで住宅価格が上昇し、2004年までに株価も約24%上昇しています。
住宅購入市場の活性化が好景にも影響し、一般消費も活発になりました。株価は急上昇後いったん落ち着きを見せ、ゆるやかな上昇が続きます。
この辺りは2000年頃から続く持合いの上値に頭を押さえられているように見えます。白帯の内側が住宅ブームから暴落の期間です。
ちなみに、白帯の左側外の、2000年12月から2002年1月の下落はITバブル崩壊による下落です。
住宅価格は2006年中頃まで、ひたすら上昇を続けます。2002年から約33%の上昇しています。
金融機関の暴走~破綻
銀行の過度な貸付による住宅購入の後押しが激しさを増し、次第に投機的な動きが強まります。2006年頃からは再び株価が急上昇、下落に転じるまで約21%上昇します。
2000年頃からチャートを見ると、いったん下げて戻したのが2006年頃なので、ここからの上昇が、この住宅バブル相場の起点と言えるかもしれません。
実はこの頃から、金融機関の所有する住宅ローンに問題が起こり始めます。貸付の引き締めにより、住宅の流動性が低下、住宅価格が下落を始めます。
2007年中頃、住宅ローン債権関連のヘッジファンドが破綻したことが表ざたになり、金融問題がおきていることが一般にも知れ渡ります。このことで信用不安が巻き起こります。
ここからは、下落の一途、大暴落の始まりです。
1年で46%の下落
実は、2005年頃にはすでに、住宅バブルが発生している可能性、そして、その崩壊について米国内で議論が盛りをみせていました。
しかし、その警告は効力を発揮せず、上昇を続けた株価は2007年10月、明確な下降トレンドに転じます。
約5年間で約43%の上昇、その後15カ月間で約46%という史上まれにみる大暴落が発生しました。
その後、株価が元に戻るまでに要した期間は7年です。
戻るまでの期間のチャートは、他の暴落と合わせて『4大暴落で元値に戻るまでかかった期間がチャートで一目瞭然になりました』の記事にまとめています。
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リーマンショック年表
2002年頃 | 住宅ブームの始まり | |
2003年頃 | 住宅価格が急騰を始める | |
2006年頃 | 住宅価格が下落に転じる | |
2007年 | 6月 | サブプライム住宅ローン特化ヘッジファンドが破綻 |
7月 | 格付会社によるサブプライム住宅ローン担保証券の格下げ | |
8月 | 仏国際銀行のグループ企業がサブプライム住宅ローン担保証券の解約を凍結 | |
10月 | 当時NYダウ過去最高値:$14,164.53 | |
2008年 | 6月 | リーマン・ブラザーズ赤字転落 |
9月 | リーマン・ブラザーズ倒産 | |
2009年 | 3月 | NYダウ転換点:$6469.95(-45.91%) |
始まりは2002年からの住宅ブーム
より詳しく解説していきます。
2002年頃、米国で住宅ブームがおこります。
ブームが起きた理由は、1990年代後半から米国内の人口増加率が上昇したことで住宅需要が高まったためと考えられています。
この住宅需要の高まりから、2003年後半になると、全米各地の住宅価格が急激に上昇を始めます。
そして、全米各地で上がり続ける住宅価格をみた人々の心には、上昇は永遠に続くという確信が芽生えるようになっていったと言われています。
米国住宅価格指数
また、住宅価格が高くなると、その住宅を担保に条件の良い融資へ借換えることができるようになります。
その借換で出た余剰金を消費に充てる流れが生まれ、消費全体が活性化し、景気が向上ました。
サブプライム住宅ローン
やがて、優良貸付先への貸付が一通りいきわたり、金融機関は貸付先を探すのが難しくなります。
そこで、「信用履歴が悪い」「支払いが困難」なこれまで融資を受けることができなかった人々を対象にした高金利住宅ローン(サブプライム住宅ローン:subprime mortgage)を数多く引き受けるようになります。
それらのローンは証券化され、サブプライム住宅ローン担保証券(RMBS:Residential Mortgage Backed Securities)が発行されます。
そして、とても安全性が高い証券との触れ込みで販売され、世界中の銀行がそれを購入しました。
住宅ローン債権担保証券(RMBS:Residential Mortgage Backed Securities)
住宅ローン返済金を担保に発行される証券で、出資者は住宅ローン還付金や利息を受け取ります。日本には現在、住宅金融支援機構によるフラット35の証券化などの事例があります
住宅価格が永遠に上昇するという幻想
住宅価値はかならず上昇するのだから、価値の上昇した住宅を担保にすればより金利の低い住宅ローンに借り換えることができる。
住宅が担保であれば誰に融資しても問題は起きない。
借り手には月々の返済が不可能な高金利融資でさえも、住宅価格の上昇に合わせて、すぐに低金利住宅ローンへと借り換えさせれば問題はない。
このように考えから、過剰なまでの融資が繰り返されます。
リーマンブラザーズは、破綻した時点で資本の45倍の額まで投資が膨れていました。
住宅価格が頭打ちに
しかし、無限に上昇する住宅価格など存在するはずがありません。
住宅価格は2006年中頃をピークに、下落に転じます。
すると、上昇した住宅価格を担保に低金利ローンへ借り換えるはずだった高金利住宅ローンは、借換えができなくなります。
借り換えを前提に融資を受けた借り手たちは、当然、毎月の高額な支払いが滞ります。
債務不履行が急増すると、世界中の銀行が所有するサブプライム住宅ローン担保証券は、その価値のほとんどを失います。
ムーディーズによるRMBSの格下げ
2007年6月、サブプライム住宅ローン担保証券(RMBS)に投資していた2つのヘッジファンドが破綻したことが表面化します。
それまでは金融機関内部でリスク管理をしていたため、サブプライム住宅ローンは安全と一般的には考えられていました。
しかし破綻の表面化で、実は非常に大きななリスクがあるということが一般の人々にも知れわたることとなります。
これを受け、格付会社ムーディーズは、サブプライム住宅ローン担保証券の大幅格下げを実施します。
この格下げがのインパクトは非常に大きく、このことを暴落のきっかけとする分析もあります。
なぜ市場にインパクトを与えたといえるのか、それは為替の動きに現れています。
リーマンショックの為替チャート
このチャートは、米ドル円為替レート・ダウ工業株30種平均・S&Pケース・シラー住宅価格指数を重ね合わせたものです。2色のロウソク足が為替になります。
重ね合わせたので、転換点の相関関係が一目瞭然です。
転換点の時期を比較する表なので、それぞれの単位が異なり振幅の比較はできない点には注意してください。
2002年のピークが135円、2007年6月のピークが124円。米国住宅バブル以前の1998年頃からは、大きな振幅を繰り返しピークが切り下がっていました。
2005年に一度上昇しますが、2007年7月から再度下落に転じます。ちょうどRMBSの問題が表面化しムーディーズの格下げがあった時期と重なります。
このことから、 ムーディーズによる格下が、市場にいかに大きなことと捉えられているかがわかります。
為替は、米ドル円が37円の下落
株価の転換点は2007年10月。完全に後付けですが、ピークだけ見ると、為替が3カ月前に動いているといえます。
次の下落が、一度買い直しが入った後の2008年9月頃です。これは、リーマン・ブラザーズ倒産の時期と一致します。
2007年6月の124円から、2008年年末の87円、19カ月で37円の下落。なかなかのインパクトがある数字ではないでしょうか。
パリバ・ショックが暴落の引き金に
これが株価暴落のきっかけとして最有力と目される出来事です。
翌月8月には、増加するサブプライム住宅ローン担保証券の解約に伴う現金化に苦しむ仏大手金融機関BNPパリバ(BNP PARIBAS:2020年総資産額世界8位)のグループ企業が、投資ファンド解約の凍結を発表します。
これは、大手国際銀行がサブプライム住宅ローン担保証券のリスクを認めた最初の事例です。このことは金融市場の信用を失墜させました。
世界中の銀行が損失を計上、サブプライム住宅ローン担保証券の巨額な損失が表面化していきます。
このことで、金融業者の引き締めが起こり経済が縮小、2007年10月には株価は下降トレンドに転じます。
そして、株価下落トレンドが明確になった後に、リーマン・ブラザーズの巨額赤字が発表されます。
リーマン・ブラザーズの倒産
Lehman Brothers Holdings Inc. (NYSE: LEH)は、米国のニューヨーク6番街に本社を構えていた証券会社です。
1994年に、ニューヨーク証券取引所へ上場しました。
2008年 | 6月 | 3月~5月期決算純損益が約28億ドル(約3000億円)の赤字 優先株発行により60億ドル(約6400億円)の増資を発表 1994年の上場以来初の赤字転落となる 損失理由は RMBS の損失と信用不安の影響とみられる |
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9月 | 6月~8月期決算純損益39億ドル(役4200億円)を発表 | ||
9日 | 米合衆国連邦政府の公的資金資本注入の見込みが立たれたとの報道が流れる 株価が前日比最大-44.95%まで下落、その後も下落継続 |
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12日 | 米ワシントン・ポストが、米財務省とFRBがリーマン・ブラザーズ売却について調整中と報じる 15日に売却発表と噂される |
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15日 | 連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当する)適用申請、倒産 |
リーマン・ブラザーズ倒産直前の株価チャート
倒産したのは2008年9月15日、負債総額は約6,000億ドル(約72兆円)に及びます。
この日のダウ工業株30種は500ドル超下落、日経平均株価は660円下落し12,000円を割込みました。
リーマンは自己資本に比して業界トップの過度の借り入れ資金を有し、2007年には正味有形株主資本170億ドル(約1兆5000億円)に対し、投資総額は7500億ドル(約67兆8000億円)にまで膨らんでいた。かなりの部分が不動産担保証券(Mortage-Backed Securities、MBS)に投資されており、後に「不良債権」に姿を変えた。
AFP BB NEWS 14/9/2009 WEBページ「リーマン・ショックから1年、元トップトレーダーが明かす破たんの内幕」より
象徴とされるリーマン・ブラザーズ破綻は、日付としては、リーマン・ショック下落相場のなかばにおきた出来事です。
暴落のピークからボトムに対して、40%程度下落したタイミングでの出来事でした。
米国を代表する証券会社が倒産した衝撃は甚大でした。あまりに印象的な出来事だったため、誰かが社名をとって「リーマン・ショック」と呼んだのでしょう。しかし、この暴落に対する名付けとしては、タイミング的にいまひとつピンときません。そのためか、日本以外でこの呼び名は一般的ではありません
リーマン・ショックについて、ここまでが、ことの始まりから暴落までの一連の出来事となります。
最後に、日本の株価指数との比較と、暴落前後の長期チャートの解説をします。
住宅バブル期間の日経平均株価チャート
上が日経平均株価、下がダウ工業株30種です。
縦軸の単位が異なるので、振幅は比較できないことに注意してください。
日経平均株価(NIKKEI225)日本経済新聞社が算出する、東京証券取引所第一部上場銘柄225社の株価を基準にした指数です。日本を代表する指数です
似た動きをしたと言ってよいのではないでしょうか。
2006年4月の山はダウにはありません。2006年は、1月のライブドアと、6月の村上ファンド、2つの事件があった年です。
SARSの記事でも書きましたが、日本国内の事件は、この時も米国の株価にほとんど影響を与えませんでした。
長期チャート
最後に、ダウ工業株30種、日経平均株価、為替の3つの長期チャートを掲載します。
前後のトレンドをふまえて、再度リーマン・ショックの値動きを見てみてください。縦軸の単位が違いますので、上下の振幅は比較できません。
白帯の内側が、住宅バブルの始まり~暴落の底になります。
みのたけの感想
リーマン・ショックは事情が複雑な印象がありましたが、やはり複雑でした。
調べていて気になったのが、論調に米国と日本でズレがあるという事です。日本国内の記事ではリーマン・ブラザーズの名前を非常に多くみるように感じました。
米国の記事は、住宅バブル問題を前提として「BNPパリバ問題」並び「ムーディーズ格下げ」が暴落の契機になったという論調が多い印象です。リーマン・ブラザーズは、それほど重要視されていない感すらあります。
ご愛読ありがとうございます!