米国株式市場を対象に、IPOとはなにか?から始まり、その目的、ロックアップ、IPO後の値動き、相対取引と直接上場まで、一気に解説します
目次
IPOとは、新規上場株式のこと
IPOは、「Initial Public Offering」の頭文字をつなげた略語で、新規上場株式の意味
3つの英単語はそれぞれ、このような意味をもちます
- Initial …… 初めの/最初の
- Public …… 公(おおやけ)の/公共の/公開の
- Offering …… 売り出し/募集
これらの単語の意味をつなげて一文にすると、「最初の公の売り出し」になります
ただし、IPOは投資分野の専門用語なので、単語そのままの意味とは少し異なります。投資分野でIPOという場合は、株式を意味する単語が含まれなくても、株式のことを指します
そのため、「株式の最初の公の売り出し」となります
株式の「公」は、証券取引所。ですので、「公の最初の売り出し」は新規上場。そこで、日本語では新規上場株式や新規公開株式といわれます
では、公開される米国証券証券取引所には、どのようなものがあるのでしょうか?
米国の証券取引所は2つ
米国の取引所には「ニューヨーク証券取引所」と「ナスダック」があり、それぞれの公式WEBサイトではIPOの予定が公開されています
The New York Stock Exchange
【外部リンク】
ニューヨーク証券取引所:公式WEBサイト
IPO予定銘柄リストURL
https://www.nyse.com/ipo-center/filings
1792年5月17日に設立された、世界最大の取引量を誇る証券取引所。米国ニューヨーク州ウォール街の本館は国定歴史建造物に指定されています
ニューヨーク証券取引所はIntercontinental Exchange(NYSE: ICE)が所有しており、"NYSE"、"NYSE Amerian"、"NYSE Arca Equities"、"NYSE Chicago"、"NYSE National"の取引所により構成されます
ニューヨーク証券取引所の上場銘柄には、このような有名企業が含まれます
- Bank of America(NYSE: BAC)
- Ford Motor Co.(NYSE: F)
- General Electric Co.(NYSE: GE)
- The Coca-Cola Co.(NYSE: KO)
- Twitter Inc.(NYSE: TWTR)
- Visa Inc.(NYSE: V)
また、代表的な指標として次の2つが特に有名です
- S & P 500 INDEX(SPX)
エス・アンド・ピー・500・インデックスは、NYSEに所属する500銘柄から算出する、米国を代表する指数。時価総額加重平均型株価指数 - DOW JONES INDUSTRIAL AVERAGE(DJI)
ダウ・ジョーンズ・インダストリアル・アベレージは、NYSEに所属する産業関連銘柄30種から算出されます。日本では、ダウ工業株30種平均株価、略して「ダウ平均」などとも呼ばれています
Nasdaq
【外部リンク】
Nasdaq Home Page:ナスダック 公式WEBサイト
IPO予定銘柄リストURL:
https://www.nasdaq.com/market-activity/ipos
1971年2月8日に設立され、米国の証券取引所です。2005年2月9日にNASDAQでIPOをおこないNasdaq, Inc.(NASDAQ: NDAQ)として1株$9の公開価格で上場しました。4000以上の企業がこの市場で上場しています
ナスダックの特徴のひとつとして、取引所の数が多いとこがあげられます
取引所の中心となる"The Nasdaq Stock Exchange"には3つの階層があり、それぞれ"The Nasdaq Global Select Market"、"The Nasdaq Global Market"、"The Nasdaq Capital Market"と名付けられています
その他にも国際色豊かな取引所、"Nasdaq First North"、"Nasdaq First North Premier"、"Nordic Main Market"、"Baltic Market"などがあります
ナスダック上場銘柄には、このような有名企業が含まれます
- Apple, Inc.(NASDAQ: AAPL)
- Starbucks, Inc.(NASDAQ: SBUX)
- Microsoft, Inc.(NASDAQ: MSFT)
- Facebook, Inc.(NASDAQ: FB)
- Amazon.com, Inc.(AMZN)
- Tesla, Inc.(TSLA)
また、代表的な指標としてナスダック総合指数があります
Nasdaq Composite Index(IXIC)
ナスダック取引市場に上場するほぼすべての銘柄の株価をもちいた時価総額加重平均株価指数。基準日となる1971年2月5日の指数を100として算出します。米国に本社がある銘柄以外も多く含まれることが特徴のひとつです
日本から米国IPOに応募することはできない
IPOにより証券取引所で取扱われるようになった株式は、取引所のルールに従えば誰でも株式が購入できます
しかし残念なことに、日本から米国市場のIPOへ応募することは、ほぼ不可能です。なぜなら、日本の証券会社が米国企業のIPO銘柄を引き受けることが無いから
IPOに応募するためには、IPOを引き受ける証券会社のIPO買付募集に応募する必要があります。そして、応募するためには、その証券会社に口座を開設している必要があります。つまり、ほとんどの米国企業のIPOでは、買付募集に応募するために、米国の証券会社の口座が必要です
この米国の証券会社の口座が問題で、日本から開設することが困難です。そのため、日本国籍の一般個人投資家の場合、IPO後に買付をすることになります
IPO後、時間をかけて株価は上昇する
しかしIPOは、公開直後に売ってキャピタルゲインで稼ぐだけが正解ではありません。特に大きく上昇する銘柄は、それなりの時間を経て上昇することが一般的です
参考まで、FaceBookとアリババの値動きを見てみましょう
フェイスブックがIPOした後の株価の動き
Facebook, Inc.(NYSE: FB)は、2012年5月18日にIPOをおこない$38の売出価格で公開されました
2012年9月4日に公開価格より$20.54安い$17.55まで下落しています。完全に後付けですが、IPOに応募するより、109日後に購入して持ち続けたほうがパフォーマンスが高かったということになります
アリババがIPOした後の株価の動き
Alibaba Group(NYSE: BABA)は、2014年9月19日にIPOをおこない$68の売出価格で公開されました
2015年9月1日に$10.8安い$57.20まで下落しています。IPOに応募するより347日後に購入して持ち続けた方がパフォーマンスが高かったということになります
※ブログ記載内容は、投資の推奨または勧誘を目的としたものではありません。※正確な情報をお伝えるるよう心がけていますが、記載内容を当ブログが保証するものではありません、取引の際は、必ずご自身で取引内容を確認し、投資にあたっての最終判断はご自身でお願いします
IPOは数年後に大きく上昇する銘柄を狙う
先の2社は、IPO数年たった後に、チャートを見てパフォーマンスが高い有名企業の銘柄を選んでいます。現実には、このような銘柄を自分で見つけてIPO直後に投資することは、とてつもなく難しいことです
しかし、公開間もない企業の事業内容を精査し、長い年月をかけて、何十倍や何百倍までも株価が上昇する銘柄を見定める、それが株式投資の王道ではないでしょうか
COVID-19の暴落からも解るように、テクニカル分析よりも、世界情勢や企業の取り組みは株価により大きな影響を与えます。チャート分析は多くの場合、決算間隔(米国市場上場企業であれば3か月)を超えるとあまり役には立ちません
IPO以前のタイミングは、企業がミッションに向かって純粋に取組む姿勢を見定めるまたとない機会ではないでしょうか
とこで、先の例にあげた両社ともに、上場後しばらくの間は株価が低迷していることに気が付いたかと思います。これは、ロックアップという制度が大きく関係しています
ロックアップとは、初期投資家が株を売却できない期間のこと
ロックアップとは、IPO以前に株を得た投資家や役員・従業員などが、一定期間は持ち株を売却できないというルールを指します
IPOでは、概ね3か月から24か月の期間が設定されます。上場日からその期間は株式を売却することができません
IPO以前に発行された株を所有する株主は、ロックアップ期間終了後、株式を売却し利益を得ようとします。そのため大量の株が市場に出回り株価が伸び悩みむことがあります
つまり、有望だと思える企業の株を買うなら、ロックアップ直後が絶好のタイミングになる可能性が高いというです
ところで、ここまで企業がIPOをおこなう前提で解説してきましたが、そもそも、なぜIPOをおこなうのでしょうか?
IPOの目的は資金調達
IPOをおこなう理由は、広く一般に株式を公開することで比較的早く多額の資金を調達できるから
たとえば、ある企業に、多額の資金があれば業績を飛躍させるアイデアがあるとします。そして、その実現にはおおむね方法が2つあります
- 利益を貯めて必要資金を準備する
- 銀行から融資を受ける
しかし、「ライバルに先行して市場を開拓しないとシェアを奪われる」などの問題があれば時間のかかる[1.]は設立間もない企業には現実的ではありません。また、[2.]の融資についても設立間もない企業の場合は信用が確立されていないため満足な額を調達できない可能性があります
そのようなときの選択肢として、IPOが考えられます。
未来に多額の収益を上げることができる企業であることをアピールできれば、投資家へ株を購入してもうことができます。そして、その売却資金を元にアイディアを実現し業績を飛躍させることができるはずです
業績の飛躍により企業の株価が高くなれば、投資家もその売却益から利益を得ることができます
企業は、IPOのタイミングで新たな株式を発行する
IPOを実施するとき、企業は新たな株券を発行します。投資家がIPOで購入できる株は、この新たに発行された株です
この新規発行株の「株価×枚数」が、IPOによって企業サイドが調達する資金となります。何ドルで何枚売却するかは、underwriterと呼ばれる新規発行株の1次引受人のサポートのもと、関係各所と協議して決定されます
そして企業はIPOに先立ち、"S-1 Registration Statement"と名付けられた書類をUSE(U.S. Securities and Exchange Commission/アメリカ合衆国証券取引委員会)へ提出、一般に公開されたその内容をもとに投資家は購入へ応募します
そのためIPOでは"S-1 Registration Statement"で、「企業が未来に多額の収益を上げることができることを投資家にアピール」することが重要となります
投資家は目論見書で投資の可否を判断する
S-1 Registration Statement は、目論見書と出願情報をまとめた書類です
目論見書パートで、企業は投資家へ自社をアピールをします
投資家に不利益をもたらさないためには、S-1 Registration Statementの情報は公正かつ必要な情報が網羅されている必要があります。そのため、上場するためにはUSEの既定に沿った内容での提出が義務づけられます
投資家が目にすることとなる目論見書パートには以下のような内容が含まれます。
- 事業内容
- 財務状況
- 収益の総額
- 収益の用途
- 一株当たりの公開価格
- 経営陣の紹介
- 株保有者名簿と、その保有割合
- 引受人に関する情報
参考に、ビヨンド・ミートがIPOの際にUSEへ提出した、S-1 Registration Statementを紹介します
【外部WEBサイト】
USE Archives / BEYOND MEAT, INC. / S-1 REGISTRATION STATEMENT
IPOについての解説はここまでになりますが、関連情報として未公開株式と直接上場について簡単に解説します
未公開株とは、相対取引で売買される株式
さきほど解説したように、IPOは資金調達を目的におこなわれます。逆に言うと、資金が潤沢で調達の必要がい企業には株式を公開する必要がありません。そのような理由で証券取引所へ公開されていない株を未公開株と呼びます
未上場企業の株式は、相対取引で売買されています
相対取引(あいたいとりひき)
証券取引所を介さずにおこなう取引のこと。英語では、"Over the Counter Transaction"、略して"OTC"と呼ばれています。
実際にOTC株を取引をするには、取引したい株式をあつかう証券会社を見つけて売買を申し込みます。証券取引所で株式を公開する企業には、情報公開などの詳細なルールが課せられます。しかし、OTC株の企業には、取決めがほとんどありません。そのため、OTC株の企業について情報を入手することは、困難を極めます
直接上場とは、新株を発行せず上場すること
直接上場を、英語では"direct listing(ダイレクト・リスティング)"と呼びます。
IPOでは新株を発行することで売却益により資金を調達します。しかし、直接上場は新株を発行しないため、資金が調達できません
なぜ、資金が調達できない直接上場を選択する企業があるのでしょうか?
理由はいくつかありますが、ひとつは、資金の調達が必要ないため、初期投資家の株価を希釈せずに上場したいという思惑があると考えられます
上場前企業の株を所有する投資家は、企業が上場することで、株式を売却して利益を得る機会を得ることになります。しかしIPOにより発行株数が増加すると、1株の価値が低下する可能性があります。それをさけるため、新株を発行しなければ、そのようなことはおこりません
もちろん、直接上場は証券取引所に上場するので、その株は広く一般投資家が購入することができます
みのたけの感想
企業が大きくなるにつれて経営は多角化、複雑な構造ももつようになり、情報も統制され表に出てこなくなる場合が多いように思います
それに対してIPO前の企業は、ミッションに忠実な行動と熱意で、その企業の魅力が最も現れる時期なのではないでしょうか
そのようなタイミングでは、投資家としても、その企業を値踏みするには絶好の機会になるはずです
興味のある企業の S-1 Registration Statement に目を通し、企業価値を値踏みするのも投資の楽しみの1つになるのではないでしょうか
ご愛読ありがとうございます