移動平均線の期間で最も重要とされる200日線。日足チャートで移動平均線の期間を200日に設定することで見ることができます。
月足や週足で、相似形に近い移動平均線を表示するために使われているのは、慣例的に以下の期間です。
- 月足……12か月
- 週足……52週
指標は、より多くの人と同じものを見ることが重要です。そのため、定番の期間を知り、それを使用することが重要になります。
そのような理由から、実際の投資において「なぜその期間なのか?」を知ることに、あまり意味はありません。しかし、趣味の投資を推奨する当ブログでは、あえてその点を深堀していきます。
目次
本当に世界中の投資家は200日線を見ているのか?
世界的には、銘柄個別のチャートで移動平均線を見るより、指標やリストを見ている機会が多い可能性があります。
200日移動平均線を利用した有名な指標「NYSE stocks above 200-day average(MMTH:ニューヨーク証券取引所で200日平均を超える銘柄の割合)」を用いたS&P500予測は、とても信頼性が高いとされています。
もちろん、世界標準の投資WEBツール"TradingView" でも、このようにチャートを表示することができます。
また、多くの投資情報WEBページでは、200日移動平均線を越えた銘柄リストが日々発信されています。
なぜ、200日なのか?
日本では有名な指標判断基準「グランビルの法則」の発案者として知られるグランビルさんが、統計学の期間平均を株価に応用する方法を発見した際、より精度の高い期間が何日かを知るためにバックテストを繰り返しました。
テストの結果、200日線がもっとも信頼できることを確認した、と発表したことから200日線が使われるようになったと言われています。
グランビルの法則を考えたのはどんな人?
ジョセフ・グランビル(Joseph E.Granville)さんは、1923年にアメリカで生まれ、2013年に90歳で亡くなりました。
1960年に「A strategy of daily stock market timing for maximum profit(利益を最大化するための毎日の株式市場のタイミングの戦略)」の中で移動平均線を用いた分析を紹介しました。
そこに、200日移動平均線と値動きの関係をみて相場の動向を判断する分析方法が解説されています。これを日本では「グランビルの法則」と呼んでいます。
仕事は、金融ライターです。1963年から2013年まで発行された通称「Granville Market Letter(グランビル・マーケット・レター)」という市場動向記事が有名です。
彼は有能とは真逆の評判で知られています。記事の予測は大外れ、信じた人々に何度も大損害を与えたと言われています。
【外部リンク】MarketWatch.com "Four lessons Joe Granville taught us" Sept. 10, 2013
なお、世界的には移動平均線よりも、1963年に発表したテクニカル指標OBV(On Balance Volume)の提唱者として知られています。
OBVは買い方の勢いを判断する指標
チャートの下に表示されているのがOBVです。出来高に着目した指標で、線グラフが上昇していれば買いの勢いが強く、下降していれば買いの勢いが弱いと判断します。
週足52週、月足12か月は本当に使われている?
ところで、この記事の最初に「慣例的に以下の期間です。月足12か月。週足52週」と書きました。これは、本当なのでしょうか?
よく使われる移動平均線は、日足(5日、10日、25日、30日、75日、80日、150日、160日、200日)、週足(13週、26週)、月足(12ヵ月、24ヵ月、60ヵ月、120ヵ月)。
野村証券「証券用語解説集/移動平均線」
日足では5日、25日、75日、週足では13週、26週、月足では12カ月、24カ月などがよく用いられます。
大和証券「金融・証券用語解説集/移動平均線」
基本的な移動平均線の日数
マネックス証券「はじめてのテクニカル分析/移動平均線」
日足:5日、25日、75日、100日、200日
週足:9週、13週、26週、52週
月足:6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月、60ヶ月
その証拠として、大手証券会社3社から引用しました。ご覧のように、日足200日、週足52週、月足12か月は参考3社の解説に含まれます。
なお、この3社をピックアップした理由は、日本を代表する証券会社であり、公式WEBサイトにハッキリと基本的な日数を明示していたから。
ちなみに、証券会社の規模が大きければ発信することが正しいというわけではありませんが、野村證券、大和証券は時価総額の1位と2位。マネックス証券は7位です(2019年時点)。
一般的かが、やや怪しいのは週足52週です。
マネックス証券の公式WEBサイトでは「週足52週」を基本的な移動平均線の日数としています。
実際の投資判断に利用する際は、日足200日と月足12か月を使い、週足52週は補足程度に価値を下げた方がよいかもしれません。
参考まで3社で重複する期間は以下になります。
- 日足……5日、25日、75日
- 週足……13週、26週
- 月足……12ヵ月、24ヵ月
大和証券には200日が含まれません……
日足200日、週足52週、月足12か月の移動平均線を比較
ところで、この3本の移動平均線はどの程度、線形が相似となるのでしょうか?
実際のチャートで確認しました。
日足200日が「黒」、週足52週が「赤」、月足12か月が「青」です。
チャート中央の5月から8月は比較的同じ位置を通っています。
対して、チャート左の2019年1月から3月はかなり違いが出ています。
この理由を知るには、チャートの始まり2018年末から2019年始にかけての、赤と青のローソク足のヒゲが下に長く伸びていることに注目してください。ボラティリティが非常に高くなっていることが判ると思います。
つまり、この3本の線は期間の値幅が小さければ同じような線を描きますが、ボラティリティが高くなると差が大きくなるということが判ります。
偶然ですが、これは、ボリンジャーバンドを思い起こさせる動きです。
ところで、200日を12か月と同等に扱うことに違和感がありませんか?
200日は1年間の市場営業日数とする解説がありますが……
感の良い方はすでに気がつかれていると思います。200日は1年間の営業日とは全くかけ離れた日数です。
論より証拠、実際に1年間の日足の本数を数えました。
為替の年間ローソク足は259本
米ドル円の為替チャートで、実際に2019年の日足の本数を数えると259日でした。為替は平日の祝日は取引ができます。
200日より29.5%多い日数です。
日経平均の年間ローソク足は241本
日経平均はどうでしょうか。同じく2019年の日足チャートで本数を数えると241本でした。
日経平均は日本の休日・祝日は市場が閉まりますので、為替より日数が少なくなります。
200日より20.5%多い日数です
NYダウ平均の年間ローソク足は252本
200日の提唱者グランビルさんはアメリカの方なので、NYダウも数えます。同じく2019年の日足チャートで本数を数えると252本でした。
ニューヨーク証券取引所は東京証券取引所より休日が少ないため、やや多くなります。
200日より、26%多い日数です。
このように日数を数えた結果、200日を1年間とするのは無理があることがわかりました。
ちなみに日本の祝日や慣例となっている休暇を含めても、営業日外は130日前後程度。365日から130日を引くと235日です
では、200日以外の期間はどのような根拠を元に使われるようになったのでしょうか?
一般的な移動平均線の期間についての謎
先に大手証券会社のWEBサイトを引用して、基本的な期間が存在することを確認しましました。たとえば日足なら、5日線・25日線・75日線が、基本的な期間に該当しています。
残念ながら「200日=1年」説と同様に、計算の合う根拠が見つかりません。そこで、カレンダーから逆算してみます。
もちろん、謎解きなので、史実としての根拠はありません。
5日線
1週間の営業日を表すという説があります。
1952年までニューヨーク証券取引所は土曜日の立会がありました。グランビルさんが統計学の移動平均を応用した指標を発表したのが1960年。
日本の証券取引所は1989年まで土曜の立会がありました
グランビルさんの発表以降に移動平均線が積極的に使われだしたとすれば、月曜から金曜までの5日間を1週間と考えたとしてもおかしくありません。
25日線
1か月の営業日を表すという説があります。
1年間の土曜日の数は52日か53日、日曜の数は52日か53日。
移動平均線が使われるようになったのが仮に1960年以降とすると、土曜と日曜が休みとなるので、土日の合計日数は104日から106日の間。
年間365日から104日を引くと261日。106日を引くと259日。それぞれを12で割ると、21.75日と約21.58日。この計算方法ではないようです。残念……
では、仮に土曜が営業日の市場関係者が考案したと仮定します。
1年間の日数365日から53を引いて12で割ると26日。365日から52日を引いて12で割ると26日。惜しい数字です。
では、実際に数えてみましょう。2020年の1年間で日曜日を除く日数は、それぞれ、27日、25日、26日、26日、26日、26日、27日、26日、26日、27日、25日、27日です。合計314日を12か月で割ると26.16…日。
すっかり忘れていました、2020年はうるう年です。1日多いはず。
2019年を数えます。27日、24日、26日、26日、27日、25日、27日、27日、25日、27日、26日、26日で合計313日。12か月で割ると26.0833…日。
25日にはなりませんでした。誤差は1日だけですが、なぜ1日少ないのかは謎のままです。悔しいですが今のところ他の手がかりがありません。
75日線
3か月の営業日を表すという説があります。
1か月が25日とする考えを踏襲し、3か月を掛け算すると75日になるので、そこから考えたのでしょう。
25日が謎なままなので、それを根拠にするのはかなり気が引けます……
残念ながら、すっきりと計算が合うというわけにはいかないようです。
それでは、週足の方はどうでしょうか?
週足の52週はどのように計算したのか?
2019年の週足チャートで1年間のローソク足の本数を数えると52本。
米ドル円の為替チャートと日経平均株価の、どちらのチャートでも同じです。これはすんなり、数字が合いました。
週足52週は1年間を基準にした移動平均線になっているようです。
200日移動平均線とは、20.5%から29.5%の期間ズレが生じる移動平均線だということがわかりました。
日足200日線と週足52週は別物と考えた方がよさそうです。
200日は週足40本か43本
200日間の週足本数も数えました。せっかくなので、興味のある方のために書いておきます。
米ドル円の為替チャートだとローソク足40本。日経平均株価のチャートではローソク足43本でした。
証券会社WEBサイトで週足チャートの一般的な期間について確認しましたが、40や43という数字はありませんでした。
個人運営と思われるブログの3つで、40という記事を見つけましたが、ごく個人的な期間設定と考えてよさそうです。
200日が何週間か数えるのは、一般的ではないようです。
月足で200日間のローソク足は10本
1年と考えるならローソク足12本、簡単です。
では200日で考えると何本でしょうか?
米ドル円の為替チャートと日経平均株価チャート、どちらも10本でした。
これも、証券会社WEBサイトで確認してみましたが、10が一般的という解説は見当たりませんでした。
ローソク足12本の移動平均線が一般的なようです。
週足と同様に、200日移動平均線と20.5%から29.5%の期間ズレが生じることがわかりました。やはり200日移動平均線とは別物と考えた方がよさそうです。
みのたけの感想
いろいろ散らかした感がありますが、結論です。
200日移動平均線を期間が異なるチャートに表示するには、週足53週、月足12か月を設定します。
各期間の誤差より、実利を優先しましょう。
日足200日を正確に他のチャートに移しても、同じ指標を見ている人が誰もいなければ、効果はあまり期待できません。
利益拡大に意味があるのは、多くの人が使う期間を使うことなので、誤差より、一般的な期間であることを優先するべきです。
そもそも、売買高が少ない1960年にバックテストをおこなった200日線の有効性が怪しいという根本的な問題はあります。しかし、それよりも沢山の投資家が参考にしているという事実の方が大切だと「みのたけ」は思います。
ご愛読ありがとうございます!